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山縣然太朗氏(山梨大学医学部社会医学講座教授)インタビュー

医学連新聞191号掲載



 八月に行われる「全国医学生ゼミナール」の今年のテーマは、「健康とは~移り行く人間社会の中でその意味を考える~」に決定しました。その企画作りの一環として、識者へのインタビューを行っていきます。今回は、山梨大学医学部社会医学講座の山縣然太朗先生へのインタビューを掲載します。

先生のご専門

[学生]まず、先生のご専門は、どのようなことされているのか、ご説明願えないでしょうか?
[山縣先生(以降山縣)]公衆衛生の教室なので大きな柱として、一つは地域保健・地域医療のところで、疫学という手法を用いてその要因などを明らかにしてそれをいかに地域に還元するかということを研究しています。もう一つはゲノム疫学という、人の病気のかかりやすさ、すなわち、遺伝子と生活習慣や環境との交互作用を研究しています。
 前者の方は、母子保健を初代の教授の時代から、ある地域での悉皆調査(全数の調査)で生まれてくる子どもたちをずっと追いかけています。それは行政と住民の人たちと僕たちとで、三者でもう十七~十八年続いているっていう研究があります。たとえば思春期の肥満の原因として小さいときの生活習慣とか親子の関係があることを明らかにしたり、子どもの死亡事故がどういうふうに起きているのかを明らかにしています。介入研究と言って、誤飲をしないようにする"誤飲チェッカー"を使ってもらって、実際に事故が減るのかどうなのかを研究しています。
 ゲノム疫学の方は、例えば運動をして体重が減る人と減らない人によって体質に違いがあるとかを明らかにする際に、実験室で遺伝子を同定するだけでなく、疫学研究の研究デザインを用いて研究をします。また、ゲノム科学だとか生殖補充医療技術のような先端医療技術とか先端科学が社会とどう接点を持つかという、その社会との接点というものを考えていく研究をしています。
 あとは、山梨県の健康寿命は日本でトップクラスにあるんですけれど、それの要因を明らかにするために、県と一緒に研究会を作って取り組みました。その成果として「山梨健康長寿十か条」というのを作って、それを元にして今年は介護予防健診のようなものを、まあ来年から国としても始まるものを先取りして、もう少し具体的に介入していく方法みたいなものを、明らかにする調査研究をこれからやります。
 地域の大学の公衆衛生の果たす役割として、地元の人たちと一緒に健康問題について考え、それを僕たちは科学的に要因を明らかにしたもの(科学的根拠)を提供して、地域に還元する。そういうところから世界に発信できるような研究ができるだろうと信じています。疫学とかの研究は、その地域住民から始まって、その地域住民に終わる、ということを教室のキャッチフレーズにしてやっているんです。それが教室の概要ってところでしょうか。

健康とは?

[学生]先ほど健康寿命という話がありました。健康という言葉はいろいろな定義がされています。WHOは、到達すべき、満たすべき目標ということで掲げています。先生はどうお考えですか。
[山縣]僕たちはただ生きているだけではなくて、何か目的があったり、何かしたいことがあったり、そういうふうなことがある程度自由にできる状態でありたいと、そういう状態が健康なのかなって気がするんです。
 心の部分はすごく大きいと思います。QOLはよく言われるけど、本当に大切でしょうね。立場や状況など人によって違うとは思うんだけど、少なくとも限られた状況を自分で認識した上で、こんなことならできるんじゃないかとか、こんなことをやりたいって思うときに、それができる状態にある。たとえば車椅子に乗っている人が一〇〇メートル走りたいっていうのは、それはそもそも無理なことだよね。たとえば足が不自由だということを自分の今の状態をきちんと認識して、そのうえでどんなことをしたいのか考える。車椅子で一〇〇メートル行くのが楽しいと思うかもしれないし、体を動かすこととは別の楽しみを見つけるかもしれない。それをやるためには心が病んでいては難しいかもしれない。だから、健康を考えるときには段階があって、まず、自分自身が身体的な能力も心の能力もいろいろ含めて、きちんと自分のことを理解する。そのうえで、「こんな努力するとできるんじゃないか」「こんな楽しみがある」「こんなことできると自分にとってもいいけど、他の人のためにもなる。それで喜びを得ることができる」とか。自分がこの世の中でこんな役割を担えると思えたら、それを実行するために、最低限必要なもの、基盤となるもの、それが健康かな。

健康の要因-生きがい

[山縣]健康寿命を考えたときに、高齢者は心身ともにガクッと来る時期がやっぱりあってね、男の人ってけっこう定年のときにきたりする。社会の自分の役割がなくなったりするから。女の人は七十代半ば、それは家の中でいままで家事をしていたのが、お嫁さんもいい年になって、そろそろ定年になったり、子どもの手が離れたから家のこともできるようになって、「おばあちゃんもういいよ。私がするから」と言われて急に役割がなくなったりする。仕事の場合もあるだろうし、ボランティアの場合もあるだろうし、日常生活の中で誰かを支えているという営みもあるだろうし、いろいろあると思う。一言で言うと日本語の「生きがい」。
[学生]さっきあげたのは、そういう役割が大きく変わる時期だと。
[山縣]「生きがい」があるから健康でいられる、役割があるから健康でいられるし、役割をはたすためには健康でないといけないし、そういう相互関係みたいなものがあるんじゃないのかな。
 山梨の健康寿命で元気で長生き出来る要因は、一番に社会的ネットワーク、人と人とのつながりが大きい。山梨には「無尽」というものがあって、山梨の特徴的な人と人とのつながりなんだよね。無尽を楽しんでいるかどうかで健康寿命に差がある。無理矢理作られたコミュニティの中に自分がいるのはあんまり心地よくなく、健康にも必ずしもプラスにならない。自分がそのコミュニティの中にいることを楽しめたり、役割があるようなコミュニティが存在するとおそらく元気でいられる。無尽ってあまり知らないと思うけど、数人ぐらいで、たとえば高校の同級生だとかその地域での何かの会だとか、近所のお嫁さん同士とかで五人から十人ぐらいで月に一回程度、会を設ける。月五千円ぐらい出しながら、半分はその時の飲み食いに使って、半分はためて旅行とか別のことに使うとかね。本来の無尽だとそれを誰かに一時的にお金を貸してあげるとかするものなんだ。無尽もいろいろあって、気心の知れた人同士の無尽もあれば、たまたま入ったというような無尽もあったりする。
 近所付き合いってあるじゃない。昔みたいに無理矢理近所付き合いをやるのって、必ずしもプラスではないのかもしれない。だから、コミュニティというのはその地理的なものだけではなくて、その人が孤立さえしていなければいろんなコミュニティに入りながら、それが自分の一番居心地のいいコミュニティの中で何らかの役割を持っていくと健康にいい。そういう社会的サポートが重要だってことが一つ分かった。

健康の要因-食事とコミュニティ

[山縣]二番目は食事がとても大切。
[学生]食事がかなりの楽しみの大きな部分を占める人も多いでしょうね。
[山縣]そうそう、食事はコミュニティの形成の一つの重要な要素でもあるよね。
[学生]医学部では食事についてってほとんどやらないですね。
[山縣]やらないねぇ。たしかにね、栄養素の話もあんまりやらないかな。
 いま、栄養素の問題も基礎としてはとても大切で、どんな栄養素がどういうふうに必要っていうことは大切、プラス食生活そのものもとても大切。たとえば弧食をしないとか、欠食をしないとか。食べる時に独りで食べるよりみんなと食べるとか、時間をかけて食べるとかそういうことはとても大切だと言われている。国民栄養調査っていうのがあって、一日の内で複数の人と食事を食べていますかという質問に対してYESと答える人ってどれくらいいると思う?
[学生]半分くらいですか?
[山縣]実は六十七~八%あって、三人に二人はそうやって食べてるんだね。で、逆に三人に一人は一日誰とも食べずに一人で食事してるんだよね。食事ってただ単に栄養を補給するだけでなくて、コミュニケーションを持つとか、そういうことは社会的サポートにもなるわけだよね。一人暮らしが多くなったり、高齢者とかっていうと三食一人っていうのがあるんだ。そういうところに対する支援が大切。
[学生]ご飯を一緒に食べるだけでもお互いに貢献できるということですね。
[山縣]そうそう、お弁当届けるだけじゃだめなんだ。むしろ、お弁当届けるよりも「ここにきたら食事できるからおいでよ」って言ってあげて、どこかに集まることの方が大切かもしれない。介護保険があって、いろんなサービスの支給があって、いろいろ言われている中に訓練すれば歩けるのに車椅子提供しちゃうから逆に歩けなくなって、なんていう過剰な介護のことが言われたりする。お弁当を届けることも、上手にやっていかないと、逆に高齢者を閉じこもりにしてしまったりするよ。それよりも「出てきて一緒にここで」っていうサポートが大切だよね。みんなで集まると仲間が出来て、仲間が出来ればそれなりの役割が出来たり、ただそこで楽しいだけというよりもその中で自分の役割を見いだせたりするかもしれない。健康を考えた時に、人と人とのつながりとか、コミュニティをベースにいろんなことをやるのは大切なことなんだ。
 ただ、コミュニティは昔のような近所で仲良くしましょうとか、固定化したようなコミュニティではなくて、いろいろフレキシブルにアクティブでもいい。何らかのコミュニティに自分が存在をしていて、その中で何らかの役割を持ててさえすればいい気がする。そういうことが健康寿命の調査でわかった。

患者さんの選択

[学生]いま健康ということに関して、一つの流れとして外見で健康になろうというアンチエージングみたいなものも出てきていますが、ひとつの健康管理として、先生はどう思っていますか。
[山縣]うん、ひとつの方向なんでしょうね。そこで得られるものが本人にとって何なのかっていうことがきちんとわかれば良いんだと思う。生命倫理の四つの原則に照らし合わせて、何が良いとか悪いとかその中に価値観っていうのは入っていないんだ。もしもそれが本人の価値観ならばそれは周りから止めたりだとか、だめだよって言うべきものではない。大切なことは、内面的なこととか、細胞のレベルで元気でいるということが本当に可能なのかとか、そのことによる健康障害っていうのはなんなのかとか、本当に本人にとって健康なのかってこと。それで心が豊かになれるのであればそれでいいのかもしれない。そのことばっかりに気にしていることそのものが心の病気の状態かもしれない。
 いろんなものに対するリテラシーがしっかりしていて自分で判断できるような社会にしていきたいし、そういう教育が必要になって来ると思う。
 健康の問題を考えていく時にある人の価値観を押しつけては絶対いけなくて、と僕は思っているんですけどね。みなさんはどうでしょうか?
[学生]患者さんに考えを出してもらったとしても、精神的に追いつめられて出した考えかもしれないですよね。
[山縣]そういうことも考えなくちゃいけない。だから、考える時にそれが「自由意思で」きちんと判断できるように、もしも僕たちができることがあるとすれば、そういう状況を作ってあげること。それがカウンセリングだと思う。臨床の現場で、治療を受ける受けないのカウンセリングがこれからとても大切になってくる。ぼくは遺伝カウンセリングをやっている時に一番思うことはそれね。
 出生前診断したいっていう人に、僕は必要ないって思っているんだけど、本人がどうしてもしたいっていうのであれば、自分で本当にそれが最終結論であれば押しつけてはいけない。むしろその過程が大切だよね。どうしてそういうことに思い至ったのかっていう過程があれば、後悔はしない選択ができる。医療の中に、時間と期間、スペースというかね、これからもっと必要になってくると思う。先端のいろんな医療が出てきた時に、今までは、治療法って常に新しいものがベストだったと思っていた。でももうそうじゃなくなってくると思う。本当に選択になってきた。この方が新しくできたからいいというわけではなく、ここの部分を改善したもので、前のこっちの方がいいかもしれない。こういう治療法があるかもしれないけどそのことを本当に選択しなければいけないのかどうなのか、というようになる。
 患者も医療に対するリテラシーがしっかりとするためには、その場だけでいろんな知識を吸収することはできないので、判断できるような教育が必要になってくるでしょう。
 うちの授業ではディベートをやる。答えのないものがいっぱいあるわけじゃない。でも判断しなきゃいけなかったり選択しなきゃいけない時に、自分はどういうその知識とか技術とか、それに加えて自分の健康観とかそういう価値観でものを決めていくのかっていうことが、すごく問われている。自分が構築していって解決する能力みたいなものが必要だと思います。どうですか、そういう訓練してますか?まあ皆さんしてるんでしょうね、医ゼミとか行ってね(笑)。

先生の学生時代

[学生]話は変わるんですが、先生の学生時代の話も是非。
[山縣]いやあ昔のことだから(笑)
 僕は山梨医大の一期生なので、先輩とかいなくて、自分たちでいろんなものつくっていかなきゃいけなかった。自分だちでつくるという、何かアクションを起こさないといけなくて。きっかけが自治会づくりだったり、大学祭やったり。医ゼミとかに行かないと他の情報が入って来ないわけだし。
 例えば、大学ができるっておもしろくて、最初は大学病院がなかったんだよ。山梨医大は、僕たちが臨床実習を始めるために、四年生の時に大学病院ができたんだ。当時県の人口が八十万人くらいだったが、六〇〇床の大学病院がせっかくできるだから、県内で大学病院がどんな役割を果たしてるのかということをみんなで議論しようと、県の医師会長呼んだり病院協会の人呼んだりして、付属病院の役割を考えるシンポジウムをおこなった。それは同じように全国的に考えると新設医大っていうのは、医師養成機関としてどんな役割を果たすのかとか地域の中でどんな役割を果たすのかっていうことが一九八〇年代の医ゼミではよくやられていた。
 医ゼミでは、新設医大分科会っていうのがあってさ、香川医大とかとよく一緒にやってたね。
 当時は各県に一医学部っていう政策で、旭川医大から始まって、単科の医科大学としては福井、山梨、香川が一九八〇年の開校で終わって、一九八一年に沖縄の琉球大学医学部でそれで全県にできた。その時は、人口一〇万に対して医師一五〇名というのが一つの目標だったわけだよ。当時山梨県は一三〇人くらいだったかな。要するに足りない。すでにその当時は京都とか徳島とか、開業医の先生の多いようなところは、もう人口一〇万に対して二〇〇人以上いたりした。そういう中で、僕たちっていうのはどんな役割を担っていくんだろう、と悩んでた。そのころから卒後研修のあり方みたいな話はもう出てきてて、自分が目指す科だけ最初から勉強すればいいのか、疑問もやっぱりあった。スーパーローテートがいいんじゃないか、少なくともローテートでやらなきゃいけないんじゃないのかという話もあった。最終的に卒業して十何年たって新研修制度になったということなのかもしれない。

社会疫学

[学生]医ゼミの今年の企画では、医療者になったとき考えなければいけない健康というものはどんなものなのかを考えていこうと思っています。
[山縣]ソーシャルエピデミオロジー(社会疫学)は古いようで新しいっていうのかな、重要なところだと思う。科学的にその人の背景をどう考えていくかとか、経済格差がどういう風に健康に影響を与えているのかとか、そういうことって市町村にいろんなことで保障金をはじめとして、市町村に降りていくってことはアクセスがとてもよくなるんだけど、その標準化なり制度管理をきちんとしていかないと、格差が生まれていくんだよね。これだけのことをやりなさいっていう施策はなくなってきた。こういうメニューの中で市町村で選んでやりなさい、やりたくないならしなくてもいいですよ、となってきた。一生懸命やる所はやるんだけど。今まである程度、画一化だけど、どこに行っても同じような保険サービスがあったものがそうではなくなってきている。それが健康に与える影響はあると思う。そういう視点でものを考えるのが重要。
 先端医療技術も、受けられる受けられない、などという選択ができるか。それから遺伝情報のように何でもなんでも知れば良い訳ではなくて、知りたくない権利というものを前提にした医療というものも当然あるわけだよね。がんの告知だってそうだよね。当たり前だとか言うけれど、知りたくないという人に教える必要はないと思うんだ。それを知らないと治療ができないかというと、実はわからないよね。
[学生]そこで事前に、どうやって意思を確認しておくかという...。
[山縣]だからこそ医療そのものは健康観を含めた最初のカウンセリングみたいなものが重要だと思うんだ。
 これから皆さんやろうとしている「健康」っていうものをひとつの視点からだけみていくと、なかなか一筋縄ではいかないので、難しいとは思うけど、いろんなケースで考えていくと、最低限、何が必要なのかっていうようなことは見えてくるような気がする。そのために僕たちができることって何だろうって。

学生へのメッセージ

[学生]最後に学生にメッセージを。
[山縣]僕は公衆衛生やっているので、パブリックヘルスマインド(public health mind)っていうのをちゃんと持った医療従事者になるっていうことだと思っている。患者さんだけではないんだよね。家族があり、生活、社会の中で健康を考えていかなければいけないってことです。僕の社会医学の講義の中では最終目標としてるんだけど。それはそれぞれの場で働いている人にあってもいいと思うんだよね。大学で例えば脳外科のような非常に専門的な医療技術をやる人間のパブリックヘルスマインドってなんだろうとか、地域で一線の医師としてファミリードクターとしてやる人のパブリックヘルスマインドってなんだろうとか、実際に具体的なアクションっていうのはなんなんだろうとか、それぞれ考えていってほしいなあって思いますね。そういう視点を持って、患者さんへの支援をしていく、それは人それぞれ立場とか、状況で、アクションそのものは違うんでしょうけど。それが今自分に何ができるのかっていうパブリックヘルスマインドをもって考えていけることのできるような医療従事者になるってことでしょうかね。
[学生]患者さんになれない人もいますしね。病院に来る人もたくさんいますけど、来れない人もいるし、本当なら来る前に、来る人自体が減る方がいいですけどね。
[山縣]そうそう。いや本当そうなんだよね。がんばって、いろんなものにチャレンジして下さい。


[学生]どうもありがとうございました。

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